【書評27】共感力 ハーバードビジネスレビュー編集部
ハーバードビジネスレビューのEmotion Intelligence(心の知性)シリーズの2冊目が、
共感力です。
ハーバードビジネスレビューに掲載された論文のエッセンスがまとめられ、
巻頭文に脳学者の中野信子さんが寄稿されています。
共感の優れたところ、必要なところだけでなく、
行き過ぎた共感のリスクを掲載しているところが、
本書のバランスの素晴らしさを感じます。
論文のエッセンスから、さらにエッセンスを記します。
●「なぜ共感力が必要とされるのか」 中野信子
知識・知能と共感力、どちらが重要か?
今は、「頭」だけではなく、それ以外の何かが必要!
「頭』=知識・知能は、これからはAIに。
知能と共感力が司る脳の領域は前頭前野に存在する。
この領域は、人間という種において著しく発達しているところ。
両機能は、協調的に働くこともあれば、どちらかというとお互いに拮抗する場合が多い。
そして知能の方が弱い。
これは、人間は群れをなすことで生き残ってきた歴史にあり、
生き残るための武器である。
両方が生き残るための武器であり、双方を拮抗させずに協調させることが新しい技術か。
●「共感力とは」 ダニエル・コールマン
共感には3タイプある
・認知的共感:他者の視点を理解する力
・情動的共感:他者の感情をくみ取る力
・共感的関心:相手が自分に何を求めているかを察知する力
この力は、自分が言いたいことをハッキリと説明するためにも必要なスキルである。
他人の感情・認知を理解する、自分の感情・認知を理解するー2種類の注意を働かせる
部下への思いやりは、叱責に勝るという多くの研究が行われている(エマ・セッパラ)
優れた聴き手はどう振る舞うか?
・黙っているのではなく、発見や洞察を引き出す、投げかけを行う
・相手の自己肯定感を育むようなやり取りを伴う、この聴き手に支えられ、信頼されていると思える
・協調的で、双方向のスムーズな会話/対話である
・相手が受け止めやすいような形での提案やフィードバックを行う
最も優れた傾聴=トランポリンのような役割!
●「共感と協働を促し、会議の質を高める」 アニー・マッキー
会議をポジティブな感情が生まれる場にして、楽しみ、協働。創造的である、イノベーションの場。
職場を幸せにすることができる
そのための重要な要素は、参加者を注意深く読む「共感」と「感情の自己管理」
●「子育て経験のある上司とない上司、どちらが育児の苦労に共感してくれるか?」
レイチェル・ルタン、メアリーハンター・マクダネル、ワラン・ノルドクレン
直感で経験がある方と選んでしまうが、それは間違い。
過去に苦境を乗り越えた経験を持つ人は、似たような苦境にあり克服できない人に対して
特に厳しい見方をする傾向が強い
したがって、リーダーは過去の経験からの固定観念を捨てて、相手の苦しみに特に注意を払う
●「権力を手に入れると思いやりが薄れる」 ルー・ソロモン
権力を手に入れることにより、自分の見方は常に正しい、というように主張するようになる
協調的でなくなり、思いやりを失う。
他者に共感する能力を妨げる。
権力は、ときに脳の機能を変えることもある(カナダの神経学者 スキンビダー)
権力乱用を防止するための自己診断10、が掲載されている
●「なぜ人は昇進すると横柄になるのか」 ダッチャー・ケルトナー
リーダーはレベルを問わず、誰でも不正を犯しやすくなる。
カナダの研究では、MBAを保有しているCEOは、報酬は増えるが、会社の価値を下げる。
昇進すると、利己的な行動を取りやすくなる。
職場では、他の人の話をさえぎる、他の仕事を会議中にやる、声を荒げる、人を侮辱する、など
逆に、マネージャーが、時間を割いて従業員に感謝すると、
生産性・積極性が高まるという多くの研究がある。
●「共感的デザインの原則」 ジョン・コルコ
洞察(インサイト)を導き出すデザイン。
組み合わせや比較などから、価値提案を引き出す。
ストーリーにして語る。
●「共感するにも限度がある」 アダム・ウエイツ
1)共感による消耗がある
ー医療や社会福祉の専門家には、共感疲労や燃え尽き症候群になることがある
2)共感できる量には限度があり、ゼロサム状態になり得る
ー身内の共感に使い、外部者への共感がへる。またその逆もある。
3)共感は倫理観をむしばむことがある
ーテロリストなどの内的共感の強さ、残虐行為や不正行為が続く
この対応には以下のような方法がある
・共感する相手を分ける 例)従業員に主に共感する人、顧客に主に共感する人
・双方の利益になる統合的な解決案を探り出す(ゼロサムにしない)
・休憩をとり、自分だけに集中する時間を作る