書評
BOOK
2020年08月24日

【書評2】 戦略参謀の仕事 稲田 将人

著者は、TQCに取組んでいた豊田自動織機製作所自動車事業部勤務の後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、卑弥呼、アオキインターナショナル(現AOKI HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラなどの代表取締役、役員、事業/営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。入念な戦略構築のみならず、企業が戦略を実践し、PDCAを廻して永続的に発展するための習慣づけ、企業文化づくりに取組んでいる。

私は長くマーケティング部門で会社の中期計画、製品戦略などを立案し、実行してきた。また、現在(20191月)はCEOオフィス長としてトップの戦略参謀の仕事を行なっている。

著者は、「参謀」機能の有無でトップのパフォーマンスに大きな影響を生みだすことができると結論づけている。

特に私が戦略立案・実行でこだわっていたのが、戦略を立案する部門(マーケティング)と実行する部門(セールス)の連携であり、現場を重視した戦略を立案し、小さなPDCAを繰り返しながら、現場第一に、また本部でブラッシュアップし実践力を高めていくことである。実践力の向上を盛り込むことで、次の難しい施策を実践することができ、そのこと自体が価値の優位性を高めていく。

著者が述べていること、実践していることに共鳴できることがたくさんあり、また私の主宰するKiku塾で教えていることが記してある。

当たり前のことが多いと思われるかもしれないが、肝に命じておきたいことである。

著者は、「参謀」機能の有無でトップのパフォーマンスに大きな影響を生みだすことができると結論づけている。

 戦略参謀の3つの役割は以下の3つである

  1. トップの意志決定の精度を上げるための事業方針に関する現状分析と起案
  2. 社内の「神経系統づくり」と思考の流れの「見える化」
  3. 課題の優先順位づけと課題プロジェクトの対応

これら3つについて著者は以下の戦略・方策を記している

 ・ファクトベースの議論とその文化をつくる

  ファクトの把握、ファクトの見える化、ファクトからの原因追及、課題抽出を行う

  特にファクトの見える化の時間を惜しんではいけない

 ・トップと2週間に1回は、十分に話す時間・指示を受ける時間をとる

 ・参謀体制は、人望あるリーダーを有し、分析力、コミュニケーション力に長けた人材を配置する。

  参謀が一人なら、その一人がこの役割を担う。そして、組織図のツリーを飛び越えることをいとわない

  ファクトをとるため、参謀部門は社内の駆け込み寺的存在である。相談ごとが飛び込んでくる

 ・市場起点であり、価値を生み出す現場主義に基づくことが最重要

  市場の意向を把握し、創造した価値を提供する。

  価値の源泉を作り上げる現場の力を尊び把握しマッチさせる

 ・PDCAサイクルの回し方

  スタートはCCheckから。過去と現状の実態のC検証から入る、ホンダではPDCAではなくCAPDと行っている

  PDCAには、戦略立案のPDCA、実戦段階のPDCAがある。

  戦略段階PDCAでは、仮説検証・思考を繰り返し、事業成功につながるようできる限りブラッシュアップする。

  実戦段階では、常に課題に対して行動しているので、実践力を見極めて実践力が足りないのであれば、

  実践力を高めるプログラムを入れて、ステップバイステップ式に行う。

  戦略の精度より、実践力を重視する。

 ・戦略策定では、問題発見から始まる「ロジカルシンキング」を駆使する。

  問題発見(ファクト)課題定義戦略的代替案を出し評価を繰り返す。またフレームワークも駆使する。

 ・フレームワークは見える化に有効。気づきを具体化させるものが良い。

  プロセス分析、バリューチェーン分析、業務の流れ分析などを用いる

  ・悪いPDCAに共通するもの

   それは具体性に乏しいこと。具体性に乏しいため、A(改善行動)が取れないことがほとんどとなる。

  ・悪いPDCA例をいくつか示す

    丸投げPDCAPlanを出して、あとはやっといてね。現場に任せた。フォローは曖昧

    どんぶりPDCAPCがどんぶり勘定。精度が低い・粗々なプラン(粒度が高すぎ)

    なんちゃてPDCA:資料を立派に作り見栄えの良いPDCA、具体性に欠けた曖昧な言葉の羅列

  ・PDCAは小さく早く回すー九州・沖縄統括時代に私はこれを強調し繰り返し実行してきた。

   小さな行動(D)で失敗。成功を検証(C)し、改善行動(A)につなげる。どんどん回す。

   失敗しても個人の責任にせず、組織として学ぶためにあるとして、どんどん事例を収集し、改善行動を取らす。

私はプロコーチとして、「小さなPDCAで、常に挑戦する勇気を生む、進む方向に明かりが灯されていく」と信じている。また、著者は改革の際には、相手をリスペクトすることが重要で、リスペクトでみんなが動くと記している。

改革を行うときに、現状で業務に携わっている人は責められた感情を抱きがちである。

現状は過去に最善と考えたプランで実行しているだけであると捉え、リスペクトし、受容することで人が動く。